『屋上の音楽』主催, 株式会社 Roller`s hight!! 代表取締役

コヤナギシンジ

1971年 福岡県出身

Q. リスナーとステージの境がない「屋上」は、Snarky PuppyのライブやNPR Music Tiny Desk Concerts (*1) のような「体感する」ライブの可能性を秘めているように思います。福岡で屋上の音楽をやる(やれる)ことの意味をどう捉えていますでしょうか。

A. それを当たり前のようにチャレンジしている街にしておきたい。

――福岡で「屋上の音楽」のような体感型のライブをやることって大きいと思います。

「そんなこと当たり前にやっているよ」っていえるような街にしておきたいと思ってる。こんなの出来たらいいなってみんな言うけど、そうじゃなくて、やろうや、って感覚。

ひと昔前のミュージシャンは、ある意味、仕事の場を用意してもらえてたけど、今は自分で仕事を作っていく必要がある。分かりやすいところでいうと、Snarky Puppyのあのやり方*2 動画参照は、自分で仕事を作ってるよね。誰かがやったんじゃなくて、ああいった表現の仕方を自分たちで作り上げて、YOUTUBEのような世界を使って、自分たちの仕事にしている。

ただ「Snarky Puppyのようなことが簡単にできる」みたいな勘違いは危ないかな。彼らはめちゃくちゃ巧いから。でもやり方的には目を引くから「あんな感じのこと」をやりたいって思う人は多いし、話にも上がる。「じゃあやろうや」ってなったときに必要なのが、結局のところ、技術。練習なんよ。何ごとも。

――私が初めて「屋上」に訪れたとき「ああ、シンジさんはもうやってるんだな」と感じました。「屋上の音楽」は体感するような今の音楽の見せ方に沿っていると感じていますが、その意識はありますか。

時代がそうなってるし、意識はしてる。新しい技術や、機材に対してもそうだけど、好奇心と探究心は常に持っておきたい。さっき言ったことと被るけど、「福岡でそういうことをやっている人はいないでしょ」って訊かれたときに、「いやいるよ」って部分を作っておきたい、そういう風にも思ってる。福岡以外の地方ミュージシャンからも「屋上」みたいなことをやれている人はいないって聞くから、実際、面白いことやっていると思ってるよ。

 


Q. 福岡の音楽シーンに対して望むことはありますでしょうか。

A. 純粋に音楽しかない、それに対してお金が支払われる、福岡はそういう風になればいいと思ってる。

 

――福岡の音楽シーンに対して望むことなどあれば。

うーん、ごめん。正直、そういうのはない。結局この「屋上」だって、きっかけは与えられるけど、「何をどうしたい」みたいな結論はその人自身にしか出せん。だから相手……この場合は「シーン」か? なんにしてもそういったもの対して「望む」ってほどのことはない。

そのうえで強いて言うなら、フロントに立つミュージシャンは自分が経営者と思って、なんでもできるようになってほしい。

――「フロント」というと、ソロで活動しているミュージシャンたちに対して?

そうね。バンドだったら全員か。
福岡のミュージシャンは、どこか「自分には才能がある」と思ってる節があって、そう思うことは悪いことじゃないけど、それに対する本当の意味での努力が足りない。そもそも20才を超えるまでに、引っ張りだこになってない時点で、少なくとも天才ではない。20才を超えて芽が出る人間は、たいてい忍耐強く、礼儀正しく、きちっと仕事を仕上げる、コツコツと努力を続けた人間。そういった姿勢と成果に感銘を受けた誰かが後押しして成功する、って流れがほとんどやろ。

だから、凡人たる俺らは、いつなんどきでも、自分の技量を発揮できるような状態を作っておいて、自分のビジョンをきっちり話せるような「営業」もできる必要がある。それはもう、真剣勝負の世界で、いつ勝負を挑まれても勝つための準備がある、というか、音楽の世界は勝ち負けではないけど、仕事をするうえで「今回は調子が悪かった」なんて言い訳は絶対にできんから。

といっても、だいたいミュージシャンは、いつも「今回」調子が悪い。(笑)

――ライブ前、あんなに元気だったのに。みたいな。(笑)

とにかくそれぐらい日々を怠らず、営業もできるようにしておく。

自分で歌を作って歌い、それでお金をもらうってことは、当たり前の話だけど「仕事」。たとえ一人でやっていたとしても経営者の意識は必要だよね。

あとは、俺も含めてだけど、フロントに立つミュージシャンはとにかく巧くならないといけない。

どんなに腕のいいバックミュージシャンをつけたとしても、フロントが分かってなかったら良い演奏にはならない。バックが引き立ててくれるときはあるけど、フロントが実力を持ったうえで彼らの良さを引き出す状態を作りきれなければ、本当の意味での信頼関係は生まれないからね。

――シンジさんが望んでいるのは確かな技術に裏打ちされた表現と、それを売り込むための営業ですよね。表現の世界で生きるための最低限に必要なこと。

純粋に音楽しかない、それに対してお金が支払われる、福岡はそういう風になればいいと思ってる。俺自身、それに耐えうるミュージシャンになっていきたいし、みんなもそうなっていって欲しい。

 

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好きなことをやって生きていく、その証明。


※注釈解説

(*1) NPR Music Tiny Desk Concerts
アメリカにある非営利のラジオ番組。狭いオフィスの中で著名なミュージシャンたちがコンサートを行う。

(*2) Snarky Puppy のやり方
グラミー賞を受賞しているアメリカの人気バンド。ミュージシャンが演奏しているステージの中に観客が混ざり、ライブを楽しんでいるその様子までがショウとなっている。

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