『振付稼業air:man』主宰

杉谷 一隆

1972年 福岡県出身(京都生まれ)

京都で生まれ、0歳から高校卒業まで福岡で過ごす。大学進学のため京都へ行き、卒業後は東京へ。演劇集団の主宰などを経て、2004年に業界初となる振付ユニット「振付稼業air:man」を菊口 真由美と結成。現在メンバーは7名、下は中学生、上は40代で構成する。CM・PV・TV・アニメ・映画・舞台・イベント・ワークショップなど様々なジャンルで活躍。 2008年『UNIQLOCK』にて世界三大広告賞「カンヌ国際広告祭」「One Show」「クリオアワード」でグランプリを受賞。近年では、2015年に『I Won’t Let You Down/OK Go』で「MTV VMA 2015」BEST CHOREOGRAPHY賞を受賞、日本人で初めて本国アメリカで、世界一の振付師という賞を獲得。 「ACC CMフェスティバル」総務大臣賞を獲得。2014年、DVD付きダンスの教科書「振付稼業air:manの踊る教科書」を出版。

http://www.furitsukekagyou-airman.com/


 

年間約500案件、振りのパターンにすると千数百という驚異的な数を誇る「振付稼業air:man」。その仕事は、カンヌ国際広告祭のグランプリを受賞したユニクロの「UNIQLOCK」、ポッキー、十六茶、アデランス、映画館でおなじみの「NO MORE映画泥棒」といったCM、テレビの教育番組、いきものがかり、きゃりーぱみゅぱみゅ、サカナクションをはじめとする国内外のアーティストのPV、人気アイドルのステージ演出と、どこかで目にしたことのあるものが数々と並ぶ。トレードマークの鋲が付いた革ジャンに大きな帽子とメガネといったスタイルからは、想像できないほど低姿勢かつ気さくに「誰よりも博多っ子ですよ」と話す主宰の杉谷 一隆さん。山笠や剣道に夢中になり、ダンスを始めた福岡時代の話から振付ユニットをはじめるきっかけ、地元への思いなど話をしてもらった。

 

最初に「振付稼業air:man」のお仕事について教えてください。

CM・PV・映画・舞台・イベント・ワークショップなどの様々なシーンに、振付を提供しています。それを、振付師という個人ではなく、集団によるユニットで活動していまして、これは業界初の試みだと思っています。

 

ユニットで始めたきっかけは何だったのでしょうか?

立ち上げる前まで、演劇集団の主宰をしたり、クラブイベントのオーガナイザーをしたりしていました。その間、振付のアシスタントもしていたんです。振付師の下についての仕事になるので、現場に自分だけが行ったとしても、その案件に僕らの名前はクレジットされることはありませんでした。

当時、振付師はタレントやダンサーを兼ねていまして、どこかの事務所に属していることが多かったです。それは、それで大事なのでしょうけど、振付師という職人として見た時、スタイリストさんやヘアメイクさんのようにアシスタントを経験して独立していくという暖簾分けのシステムもなく、この先、頭打ちになるのではと思っていました。

でも、オーガナイザーとして5000人くらいを集められるイベントを作れるようになっていたので、このままでいいかなとも考えていました。ある時、自分が主催するイベントに、高校生の頃から振付のアシスタントとして活躍しCMに出演するなど、業界でも注目を集める逸材の菊口 真由美が来ていたんです。そして、ベロベロに酔っ払っている自分に振付師についての想いをぶつけてきました。

「振付師になりたいんですけど、どうしたらいいですか? このままだと一生アシスタントで、振付師にはなれない」と彼女が言ったのが、一番のきっかけですね。同じように思うところもあったので、個人よりも集団になることで、全員が振付師になれて、アシスタントにもなれるという、とにかく束になっている状態が日本の振付業界の中で成立するのかどうか、試しに1年やってみようかと。ダメだったら、またイベントやろうと思っていたのですが、12年が経っていました(笑)。

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12年間、続けてこられたのは何かあるのでしょうか。

やはり、ユニットとして、みんなで考えて取り組んできたからだと思います。
振付の依頼を受け、どういうことを自分たちに求められているのか、まずはディスカッションを行い、みんなのアイデアや感覚などを出しあい、完成形を探っていきます。

みんなで、共通の考えに至ったところで、初めて体を動かします。そうすることで、一つ一つの動きにも意味が込められます。体の動きから入ると、その動きを覚えてもらうだけとなり、メッセージ性をもたないものになってしまうので。あと、みんなで一緒に考えることでコンセプトを共有できるのも強みだと思っていまして、現場に誰が行っても対応できる状態が理想ですね。

現場には、必ず複数名で行くようにもしていまして、特に撮影の際は役割分担をし、タレント、監督のそばに一人ずつつき、その間をつなぐところに一人と、トライアングルで動くことで、やりとりに関する時間の無駄を省いています。

 

2014年には“教科書”を出版されていますが、どういう内容なのでしょうか?

元々、子供たちに教えることを大切しに活動していまして、NHKの教育番組などにも関わっているのですが、平成24年度から中学校の体育の授業にダンスが必修になったことが、“教科書”を出すことになった大きなきっかけです。

まだ、構想段階の時に「情熱大陸」に出演させて頂き、番組内において実際に学校で教えている先生の抱える悩みや課題を聞かせてもらったのです。その放送を見てくれた東京書籍さんから執筆と監修のオファーを頂いたので、“先生と子ども達をダンスで近づける本を作りたい”と話したところ理解してもらえ、制作に動き出しました。

本物の教科書にしてしまうと一般の書店では購入できないですし、いわゆるDVD付きのHOWTO本にはしたくなかったので、DVDには脚本家や監督、出演者などをちゃんと立てて、作ったんです。自分も謎の男として登場しています(笑)。内容は、文部科学省の学習指導要領にも含まれる、“現代的なリズムのダンス”、“民踊・フォークダンス”、“創作ダンス”を盛り込み、最終的には自分たちの校歌に振りをつけてみようとなっています。

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出版後に意外な場所からの反応が。

本物の教科書ではないものの、やはり学校関係への反響は大きかったようです。
近く、廃校になるという東京都足立区の小学校から話を頂き、最後の記念行事として校歌に振り付けをするというワークショップに参加していますし、東京だけではなく、京都や大分などの学校から話をもらいワークショップを行なっています。驚いたのは、自分が通っていた福岡の高校でも、この本を参考に運動会で踊っているようでして、“今年も、この本のおかげで上手くいった”と、 先生から連絡がありました(笑)


「振付稼業air:manの踊る教科書」付録DVD Trailer

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