シタテル株式会社 代表取締役

河野 秀和

1975年 熊本県出身

1998年からの外資系金融機関に在籍中、米・ロサンゼルスほか短期の海外研修などを経験。2009年、コンサルタントとして独立、企業リスクマネジメント・コンサルティングチームを設立し局長を務める。2012年、シタテルの前身となる会社を設立。2013年、「経済産業省・新事業創出支援・第一回案件」に選ばれる。同年、シリコンバレーで開催されたベンチャープログラムにも選抜され、米国のITを導入したテクノロジーサービスや、産業構造の変革、M&Aなどについての見識と人脈を広げる。2014年3月、 シタテル株式会社を設立。本社・熊本と東京・丸の内に拠点を置く。スローガンに「Think&Action&Passion」を掲げる。sitateru.com


 

国内初となる、衣服を作りたい個人や企業と縫製工場をネットでつないだクラウドソーシング「sitateru」(シタテル)。1型15枚から、1オーダー30枚からという小ロットでの生産を可能とし、短納期かつ適正な価格で納品されると、サービス開始より、テレビ東京系の「ガイアの夜明け」をはじめ雑誌やWebメディアなどで取り上げられ業界内外からも注目を集めている。今回は、このサービスを運営するシタテル株式会社の熊本本社を訪ね、代表・河野秀和さんにインタビュー。事業をはじめるきっかけや内容、アパレル業界の潮流と縫製工場の関係、出身地でもあり本社を置く熊本について伺ってきた。

 

シタテル株式会社の事業内容を教えてください

国内の縫製工場、生地・資材メーカーなど約150社とお付き合いさせてもらっていまして、衣服を作りたいと思う事業会社や個人とをつなぎ、複雑な産業構造をいかに効率よく還元させていけるかを考えています。よくファッションテックやシェアリングエコノミーという言葉で記事にして頂くことが多いのですが、想いはもっと単純で「人間って衣服を着ますよね。そしてクリエイティブです。」というところから課題定義をしまして、それを解決していこうという元に動いています。事業会社や個人と工場をつなぐといってもショートカットではなく、卸やメーカーといった中間に入ってくる既存のプレイヤーも生かしつつ放射線状につないでいきたいと思っています。この産業における新しい流通の仕組み作りに取り組んでいまして、ここ1年ほどで少しずつ機能してくるようになってきました。

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社内での河野さんの仕事について聞かせてください

現在弊社にはマーケット(ユーザー)と提携工場、その2つ間に入ってつなぐコントロールセンターの3つのセクションがあるのですが、全体俯瞰したマネジメントおよびフロントセクションの戦略と分析(PR、広報、セールスのトップ)を担当しています。これまではテレビに取り上げて頂いた影響からか、インバウンドで取材の依頼がきていましたが、最近、広報・PR部門を設けましたので力を入れていこうと思っています。

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3つのセクションについて教えてください

一つはマーケット。ここではユーザー(ブランド、事業会社、個人など)を開拓したり、ユーザーとやり取りするためチャットシステムを自社開発したりしています。次にコントロールセンター。ユーザーから上がってくる要件を工場に伝えるべく、シャツやパンツなど各アイテムの生産に必要なデータベース作るなどし、ここでちゃんと情報を整理して適材適所につなぐアクションを行ないます。

以前に、ユーザーと工場を直接結びつけるといったマッチングサービス的なこともしたことがあるのですが、全くうまくいかず洋服ができないことが分かったので、真ん中に“エンジン”となるセクションを作って、全体を回していくという感じです。

そして、工場ですね。縫製工場というのは、シャツ、パンツ、帽子といったようにそれぞれのアイテムを専門に作っていますので、何を作っている工場なのか、技術力、平均工賃、生産ラインといったものをデータベースとしてまとめています。それから、クオリティチェックという検査機能を取り入れていまして、サンプルの確認だけではなく、工場の設備、コミュニケーション手段の設備(メール・SNSなど)といったところも確認しています。

 

ユーザーや工場の登録数はどれほどあるのでしょうか

現在、登録されている事業者数は1200社を超えていまして、提携する工場の数は全国130か所ほどです。そのうち九州の工場は半分くらいを占め、熊本からスタートしていったので、熊本だけでも提携工場は約30あります。依頼ベースで、何かを作って欲しいと頂いているオーダーは約1000ほどです。

 

受注が増えている背景には何があるのでしょうか

おかげさまで少しずつではありますがメディア様に取り上げていただく機会が増え、マーケットだけではなく、自治体などの支援も相俟って「共感力」が大きくなっているようです。また最近は、これまで我々のような小規模の会社とは決済のスキームがないからなどの理由で取引が難しかった大手の生地メーカーさんからも声をかけて頂き、取引ができるようになってきました。今まで大きな取引をしてきたメーカーが、ミニマムな状態でもやっていこうということになってきたのではないかと。それには、理由がありまして、ファッションの流れが昔のように何万枚も生産・販売して同じものを着てもらうというスタイルから、多品種小ロットに変わってきているからだと思います。

また、ファッションのタームも変わってきていまして、ブランドによっては本来なら春夏、秋冬の年に2回というサイクルから、多いところは年8回出すといった動きもあり、マーケットの動きに対してインフラ(縫製工場)が対応しきれていない現状はありますね。

ほかには、プライベートブランドのアイテムを海外生産している大手セレクトショップが、やり取り面や為替相場の関係から国内に切り替えたいといった動きもありますので、そのあたりが背景として考えられます。あと、店舗をもたずにBASEやminne、STORES.JPなどといったサービスを利用しECストアを立ち上げられた個人事業の方からの依頼が多いので、販売形態の多様性もあるかと思います。

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オーダーはユーザーにより多種多様

個人の方は、“これを売りたい”とイメージはあっても、パターンもないし、生地もない、どうしていいのかも分からない、といった相談。一方で、大手のブランドさんになるとパターンも生地もあるが生産管理に負荷がかっていて、生産できないので一部だけでも受けもってほしいという依頼。少ないロットで請けてもらえる縫製工場とのアクセス手段がなかったり、アクセスできたとしても初めて取引する工場でうまくオペレーションできないといいものが作れなかったりするので、そういう時に利用して頂くなど、依頼の幅は広いですね。

そのほか、アメリカ・ニューヨークなど海外のブランドからも依頼も頂いていますし、企画・ディレクションという立場で企業や団体からの依頼を受けて制服やユニホームなども作っています。昨年ごろから、2020年の東京オリンピックの案件も入ってきていますね。あと、例外ではありますが、以前に弊社を訪ねて来られた方からの「気に入っていた海外アウトドアブランドのショートパンツが製造中止になったので20着作ってくれ」というオーダーを受けたこともあります(笑)。

サービスのイメージとしてはAmazonのAWSというクラウドのインフラサービスがあるんですけど、あのサービスが洋服工場になったような感じですね。ユーザーの多種多様な要望と工場をしっかりとつないでいくというシステムが必要で、弊社はそのスキームをもてっているという感じです。

 

「sitateru」をはじめようと思ったきっかけを教えてください

「sitateru」の前身になるような仕事もしていたのですが、その前は熊本県内で弁護士さんや会計士さんらと企業リスクマネジメント・コンサルティングチームを設立し、中小零細の企業を守っていこうという活動をしていました。熊本にはアパレルのセレクトショップなど小売店が多く、そこへ伺った時に“ショップ限定のアイテムを30着くらい作りたい”という話を聞いたんです。「作ればいいじゃないですか、利益率も高いですし、やるべきですよ」と勧めてみたのですが、ショップの方が“簡単に作れないんですよ”と。それは、ショップ→卸→メーカー→商社→工場という、多重構造になっていまして中間業者が中抜きしているわけではないのですが、納品までの工程が複雑で、“簡単には作れない”状況になっていたんです。

と同時に、県内に縫製工場も比較的多く出入りする機会がありまして、経営者の悩みを聞くなどし、何か工場の技術を生かしたサービスはないかと構想していました。工場側にも複雑な工程があるので直接やり取りできるといいのにと思い、私が工場に“限定アイテム”の話を持っていったところ、「30着、いいよ、いいよ。いまラインも空いているし」と作ってくれたんです。工場の方が、業界が多品種小ロットの傾向になっていることについて認識を持たれていたので受けてもらえたのかもしれませんが、この時のことが大きなきっかけですね。成功していなかったら、この事業はなかったかもしれません。

 

熊本でスタートした理由はあったのですか?

熊本で“スタートしよう!”というより、“した”という感じですね。あとは、生まれも育ちも熊本ですし、祖母がアトリエというか縫製の仕事をしていまして自宅でオーダーの服を作っていましたし、妻の実家もアトリエでしたので、服作りを目の当たりしてきた背景はあります。服は仕立てて着るみたいなイメージはもっていました。

これまでにアメリカ・サンフランシスコへ行く機会があり、クラウドやインターネットがあれば、どこでもビジネスはできるなぁとも感じていましたので、住環境のいい熊本で始めたみたいなところはあるかもしれません。場所のこと以外にも、ITを導入したテクノロジーサービスや、既存の産業をどうやって変えていくか、M&Aのことなど、アメリカで学んだことや、向こうでできた人脈は今でも生かされていますね。本当にパッションがある人達は場所に関わる事無く近く感じます。

本社採用(熊本)に関しても、“場所を選ぶサービスではないですよね”と言って東京や名古屋、鹿児島から来る人もいます。熊本から工場の提携をスタートしたということもあり提携先も多いですから、沢山の工場の近くだから分かる空気感を私も含め社員も感じています。

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河野さんにとって熊本は、どのような場所ですか?

AppleやGoogleがガレージから始まったように、自分にとってそのガレージのような土台が熊本だと思います。都心部と違い情報が散漫しないというメリットもあり、常に集中出来る環境で何かを組み上げていける場所が住むことも含めて重要でして、実際は誰がどこでやってもいいと思うんですけど、自分にとって、それが熊本でした。自然や環境が合っているということ以外にも、衣服の縫製工場も比較的多くあり、その空気感を共有出来たのも良かったのかもしれません。今後も本社機能は熊本でやっていきたいですし、提携の工場でいうならば熊本だけで2000人ほどの雇用に関わりたいと思います。自社の採用も100人、500人、1000人と増やしていきたいですね。熊本にはベンチャーが少ないので、これからGoogleみたいな会社が出てこないか楽しみです。

 

河野さんのシンパが若い世代にも広がる

シタテルコントロールシステムの開発に関しては、富士通さんと連携するなど、ベンチャーだから誰も寄せつけないみたいな感じではなく、関係性をフラットにしてオープンにしていくマインドをもっていますので、自分たちの技術を握りしめてチャレンジするというよりは、いろんな人を巻き込んで大きなうねりをつくってやっていきたいですね。

そういう考えもあり、学生インターンにもこれまで相当数入ってもらっているんですが、数年前に高校生が“起業したいです!”とやって来ました。

その後、大学に進んだものの、“どうしても起業したいです”と何度も来るので、在学と卒業を条件にあるビジネスモデルを一緒にブラッシュアップさせていくことで、都内上場企業より出資を受けるまでになり、今年、在学しながら会社を立ち上げることになりました。経営学、事業計画など多くのことをレクチャーするのは大変ですけど(笑)、若い才能が開花することは素直に嬉しいですね。

今後もコンソーシアムづくりやローカルの大学・高校など学びの場にも微力ながら貢献していくことが出来ればと考えております。

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Photo_大林直行(101DESIGN)、Edit_Text_多田真文(REDACTION)